グリーンホラー小説 サイカチ村カラカラの呪い 第1話
はじめに・・・
2009年、1月。病気療養中の私がAさんと、吉祥寺の井の頭公園を散歩している時、池沿いの道で私たちは奇妙な物体と出会った。第一発見者のAさんはその時を振り返り、「最初、バナナの皮かと思った」と、今なお、ぼう然と語る。それは、長さ30センチ程もある、カラカラに乾いた巨大なマメのさやだった。
現地で、中身を確認する際に裂いたため、さやの先端が欠けているが、それでも私の手のひらほどある。色合いはまさに、傷んできたバナナの皮である。
頭の上を見上げると、私たちはまさに、このさやを多数枝先にぶら下げた大きな木の下にいるということがわかった。逆光で黒くかげる、マメのさやの数々。それはいつか子供の頃に見た妖怪アニメの中の、妖怪城の枯れ木にぶら下がるコウモリのように見えて、なんだか悪魔的だった。
冬の風が吹く。
乾いたマメのさやがふれ合い、カラカラと鳴っていた。
私が頭上に目をやって、一体どれくらいの時間が経っただろうか。樹上で揺れるマメのさやは、私の意識に働きかけてくるかのように時の感覚を狂わせた。そしていつまでも、私はその揺れるマメのさやから目が離せないでいた。
気付けば辺りにはいく人かの人の気配があった。男性の老人の声が、何やらこの木について連れの人々に説明をしているようだった。しかしマメのさやになお見入るこの私には、なんだかよく聞きとれなかった。私には、この木について知れる限りを知りたいという気持ちが生まれて来ているにもかかわらず。
そこで、えいとばかりにマメのさやから目を引きはがし、その声の主である老人の後姿に、話を割って教えを乞うと、その老人は急に私の方を振り返って、黙って私のことを、ジロジロ、ジロと、何か品定めをするかのように眺めたかと思うと、キッと白い歯を見せて、かん高い声をあげた。
「カーラカラカラカラ!サイカチじゃ!」
カラカラと乾いた音を首からさせて、その老人の頭は、背骨の上で揺れていた。その揺れは私に、まるで五円玉の催眠術のように、この木を育ててみたいという欲求を感じさせ、それはとても抵抗するすべのない程のものであった。
タネをまく前に
サイカチのさやはサポニンという物質を含み、石鹸の代わりになるそうです。水にぬらして揉んでみると、泡立ちました。
思ったよりやさしい、さわやかな匂いでした。
タネと昆虫
サイカチのタネにはサイカチマメゾウムシという甲虫の幼虫が寄生するんだそうです。サイカチのタネは、触ってみるとわかりますが、なかなか硬いんです。なのでタネの皮が傷つくまでは、何年経っても芽を出せないそうです。サイカチマメゾウムシが果実に産卵して、幼虫がタネの皮をかじってタネの内側に入った時にまとまった雨が降ると、幼虫は溺れ死んで、タネは水を吸うことができて、そこでやっと発芽に至るのだそうです。雨が降らなきゃ喰われるだけなのに、面倒な方法をとるものです。しかしマメ科の植物は芸がこまかいと言いますか、意味もなくこんな手間をかけるほど間抜けな奴等じゃないはずです。例えば、普通のタネは時間が経って乾いていくと、発芽率が悪くなります。でもサイカチのタネは水を吸えない分、しっかり守られていて、乾燥に強く、タネが長持ちするとか、ありそうじゃないですか?
そういうわけで、幼虫のかわりに私がタネをかじります。違います。私がハサミで種皮にうまいこと傷をつけます。タネはとても硬いので気をつけます。
ひとつのさやから全部で16粒のタネがとれました。これをビニールポットの赤玉土に埋めて、あとは春を待つだけです。
第1話、完。
(第2話へ続く)
サイカチVSサイカチマメゾウムシの壮絶なる頭脳バトル。
植物ってば食われるだけではなく案外したたかなんですね。
続き、楽しみにしております。
by rivergod (2009-04-21 12:31)
植物が子孫を残すためにとる手段はなかなか面白いものがあります。そして、そこに昆虫が絡んでくることも少なくありません。いずれまたそのへんを載せられたらと思います。いつもありがとうございます。
by 1才 (2009-04-21 18:44)